|
東電さんの柏崎刈羽地震停止から約2年、7号機は原子炉を起動して試験を行っているところですが、極めておもしろい現象が発生しています。 地震発生前はマスコミが殆ど採り上げなかった軽微な不具合、今でも他の発電所で発生した場合にはせいぜいがベタ記事の、軽微な不具合までが大きく採り上げられている点です。 さらに、マスコミ報道を受けてか、一般のブログ等でも重要度を全く理解しないままに感情的な反応に走るケースが目立つようです。 その典型的なケースが、先日発生した柏崎刈羽7号機起動時に確認されたタービン駆動給水ポンプ(以下、T/DRFP)吐出弁からの微量な漏えい。 このウェブログでは基本的に原子力発電の不具合、とくに軽微なものについては(時間の浪費が馬鹿馬鹿しいので)採り上げない方針でいましたが、今回はあえてこのT/DRFP吐出弁の事象を採り上げ、その重要度や、情報収集の方法について簡単に記したいと思います。 <どんな不具合なのか> さて、本件は、起動時に冷却水の流れる配管の弁からの微量な漏えいが確認されたものです。 BWR型の原子力発電所では、メインタービンを回したあとの湿り蒸気は復水器によって海水冷却されて凝縮され、さらに原子炉との温度差を小さくするために給水加熱器である程度加熱された後、再度原子炉へ戻されます。 この時に原子炉への給水に使用されるのが「原子炉給水ポンプ(RFP)」です。RFPは発電した電気で回す電動ポンプと、電気が無くとも蒸気で回せるタービン駆動ポンプの二種類がそれぞれ複数台設置されています。 今回漏えいが確認されたのは、このポンプの出口側に設置された吐出弁。 公表されている情報では、弁の蓋であるボンネットフランジ部、及び弁棒の回転摺道部であるグランド部からの漏えいが見られた模様です。 実はこの手の事象はそれほど珍しいものではなく、また、原子炉の安全性に影響のあるものでもありません。 <パッキンは漏れる蓋然性を有している> パッキンの類はその性質上、規定トルクで締めたとしても、その後の作動(弁の開閉)や熱、圧力等の影響で「馴染み」が発生し、微少な漏えいに至る可能性を常に有しています。 かつては弁のボンネットフランジ部のパッキンにはアスベストを使用していました。しかし、アスベスト製品の製造が禁じられたため、現在は代替品(価格が高く、しかもシート性がアスベストより多少劣る)を使うようになっています。ひょっとすると今回漏えいのあったパッキンも代替品を使用していたのかも知れません。 また、弁棒の回転摺動部であるグランド部については、組立時の締め付けだけで完全に漏れないようにするのは構造上難しく、運転圧力・温度での確認は欠かせません。(締め過ぎは摺動抵抗の増大、弁の作動性の悪化にも繋がるため、締めればよいというものでもありません) 汚染水の漏えい防止のために高圧水をグランド部に注入している弁もありますし、格納容器内や高線量区域で原子炉を停止しないと人の近づけない場所では、弁のグランド部の途中に、漏えいを外部へ逃がし、検知するための細い配管を付けています。(余談ですが「もんじゅ」ではナトリウムのグランド漏えいを検知するため、検知器を差し込んでいます。) もし、本格運転に入った後で漏えいがあっても、放射線管理区域内の各エリアに設置されたエリアモニタやダストモニタ等の各種放射線モニタで関知することが可能です。しかし、運転に伴い線量が急上昇する場所もありますし、場合によっては原子炉を停止させて点検を行う必要があるケースもあります。 このため、原子炉の起動・昇圧段階(起動試験)での点検・確認は欠かせません。(昔は私も起動試験時にバルブ屋さんと一緒にグランド増し締めのために建屋内の高線量区域内をあちこち回ったものです。) 本件はこの原子炉起動時の点検・確認時に発見されたものであり、大騒ぎするようなものではないのです。 法律に伴う国への報告対象トラブルにも該当しないと思いますし、現在ほど「なんでも公表しよう」となっていなかった昔であれば、ひょっとすると公表せずに発電所の検査官にだけ説明して終わり、となっていた可能性が高いです。 <放射性物質は漏れたのか> 漏えいした放射性物質については、東電さんの公表文やその他の公表情報に「エリアモニタ等は作動していない」との記載があることからも、漏れた蒸気はごく微量、つまり放射性物質も殆ど漏れていないことが解ります。 この放射線モニタは、かなり感度の高いものです。 定期検査中は作業員の方がゴミを袋に入れて運びますが、この時にエリアモニタの近くを通ると中央制御室で警報が鳴ることもあります。 また、ダスト放射線モニタについては、壁のコンクリートから出てくる自然核種で警報が鳴ったこともあるそうです。 それほど感度の高い検知器ですから、もし問題となるほどの放射性物質が漏れていたのであれば、直ちに指示値が急上昇し、警報が鳴っていたことでしょう。 このように原子力安全の面からは取るに足らない不具合にもかかわらず、マスコミが大きく採り上げた背景には、恐らく「大地震の被害を被った発電所の再起動だから」ということがあるのでしょう。普段であれば、当該発電所のある地方紙、全国紙は事象の大小の理解できない毎日新聞くらいしか採り上げないと思います。 <誰でも出来る情報収集> 専門家でもない方が報道だけで事象の重要度を判断するのは不可能ですが、実は様々な場所に情報があり、それらをさっと読むだけで、誰でも簡単に判断することが可能です。 ここからは、このT/DRFP吐出弁の不具合を例に、情報の収集方法を書きたいと思います。 まず初めに見るべきは、もちろん電力会社からの情報です。 全ての電力会社は自社の原子力発電所で発生した全ての不具合について社内で重要度を判定し、公表区分に合致したものはその都度公表しています。 前述の放射線モニタに関する記述は東電さんからの下記のプレスリリースにあり、(警報発生どころか)「指示値の変動はなかった」と明記されています。発見者や作業者の被ばくはほぼ皆無だったことが解ります。 また、「午後1時頃発見」「増し締めにより午後2時40分頃漏えいは停止」とあることから、短時間の間に処置を終えた、つまり簡単な作業で済んだことが解ります。 柏崎刈羽原子力発電所7号機 プラント全体の機能試験における タービン駆動原子炉給水ポンプ(A)吐出弁からの漏えいについて 下記は機能試験の進捗状況です。前の個別情報同様に「増し締めにより対応を終えた」と書かれているのみであり、さらに、その後も対応を行った様子はありません。 このことから、非常に軽微な不具合であったことが再確認できます。 柏崎刈羽原子力発電所7号機 起動試験実施状況 柏崎刈羽原子力発電所7号機 新潟県中越沖地震後のプラント全体の機能試験の 進捗状況について[定格熱出力到達後の評価について] 建屋内の放射線モニタでは全く検知されなかったことから放出はありえないはずですが、それは外部のモニタでも確認することが出来ます。 柏崎刈羽原子力発電所リアルタイムデータ 経済産業省原子力安全・保安院でも、検査官が現場の状況や放射線モニタを直接確認し、プレス文で「外部への影響はない」と明記しています。 東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所7号機原子炉給水ポンプ 弁からの漏えいについて また、東電さんでは、柏崎刈羽で地震発生以降に発生した地震関連のトラブルや大きな不具合を週単位で取り纏め、点検・復旧情報と併せて「週報」として毎週公表しています。 新潟県中越沖地震後の点検・復旧作業の状況について(週報:6月11日) この「週報」に記載がないことから、T/DRFP吐出弁の不具合は地震とは無関係であることが解ります。 地震に関連したものであれば記載があるでしょうし、さらに重要度の高い「トラブル」に該当するものであれば、公表区分T〜Vの中に含まれているはずです。(公表区分については、同社ホームページの「不具合の公表」の「不具合の公表基準について」に記載があります。) 本件については、新潟県で設置した技術委員会でも、東電からの情報提供、及び審議が行われているようです。こちらには弁の概略構造図や漏えい箇所、締めた場所などが記されています。また、「締め付けトルクの不足」が原因でないことも明記されています。 技術委員会電子会議室のトップページ ・・・委員からの質問もあったようですが、本件は技術委員会では特に大きな問題とはされていない様子ですね。 以上の公開情報から、専門知識のない一般の方でも、下記の情報を得ることが出来ます。 「整備不良や故障ではない」 「増し締めで簡単に対処できた」 「地震とは関係ない」 「弁から漏れた放射性物質は検知されないほど微量」 「外へは漏れていない」 もちろん、作業員の体内への放射性物質の取り込みや労基への報告対象レベルの被ばくもありません。 <さらなる情報収集のために> この他、東電さん(柏崎刈羽)では一ヶ月毎に不具合をリストにとりまとめ、ホームページで公表しています。今月発生したT/DRFPの不具合はまだ掲載されていませんが、ここには各不具合の重大性(グレード)も記載されており、どの程度のものなのかが一目瞭然です。 発電所の不適合情報(不適合管理委員会報告) また、対応が一段落した時点で、日本原子力技術協会の運営するNUCIAへも詳細情報が掲載されることになっています。ここには国へのトラブル報告対象なのか否か、またその報告基準となる法令は何か、までもが記載されます。 原子力施設情報公開ライブラリーNUCIA もし国への報告対象トラブルに該当する不具合(本件は軽微すぎてそんなものに該当する訳ないと思いますが)であれば、今後、原子力安全・保安院のホームページにおいて、INESの基準に準じた評価がなされることでしょう。 経済産業省原子力安全・保安院 <まとめ> このように、一般に公開されている情報に基づき事象のレベルを判断することは誰にでも簡単にできることです。 マスコミは大騒ぎした方が売れますから、小さな事象を大きく採り上げる習性があります(特に毎日新聞)。また、専門家ではありませんから、誤った報道をすることもよくあります(例えば今回は読売新聞)。 我々国民がいい加減な報道に踊らされて過剰な反応をとることは、無駄な社会的コストの発生を招き、場合によっては風評被害による地元経済への影響に繋がることもあります。 原子力に限ったことではありませんが、情報量の多い現代こそ、自ら情報を収集して冷静にかつ合理的に判断することが重要と言えましょう。 |
| << 前記事(2009/06/05) | ブログのトップへ | 後記事(2009/07/14) >> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
こんばんは。刈羽から20Kmのところにすんでいる者です。 |
山男 2009/06/22 22:36 |
こんにちは。 |
バルブマニアあぁさぁ 2009/07/11 12:09 |
それにしても、一番の問題は「マスコミの情報が全く頼りにならない」ことなんですよね・・・電力会社のホームページを真面目に見ている人はあまりいないでしょうから。 |
あぁさぁ 2009/07/11 12:44 |
バルブマニアさま |
NUCNUC 2009/07/14 23:59 |
山男様 |
NUCNUC 2009/07/15 00:09 |
| << 前記事(2009/06/05) | ブログのトップへ | 後記事(2009/07/14) >> |