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昨日の報道では、日本原電さんの敦賀1号が原子炉再循環ポンプのメカニカルシールの機能低下により手動停止することとなったとのこと。 かつて数年間に渡り原子炉周りの現場担当をやっていた者としてこれは外せない話題なのですが、どうもマスコミ各社はいつもの如く騒ぎ過ぎに感じます。 この原子炉再循環ポンプは、沸騰水型軽水炉(以下、BWR)で炉内の水を循環させることで出力を調整する機能をもつポンプです。 ポンプの回転部と非回転部との間には言うまでもなく僅かな隙間が必要ですが、外部への水の漏えいを防ぐために「軸封部(シール)」が設けられます。 低圧ポンプの場合にはこの部分は極めて単純な構造で、ポンプ内部の水を潤滑のために用いるものもあります。しかし、BWRの原子炉圧力は約70気圧。さらに放射能を帯びた高温水ですので、これを外部へ漏らす事は極力避けるべきです。 このため、原子炉再循環ポンプや原子炉冷却材浄化ポンプ、ECCSポンプ類などには、「メカニカルシール」と呼ばれる少々高価な部品が使われます。大きさは両手で持てる程度のものですが、価格は普通自動車の1台〜数台分にあたります。 今回機能が低下したのはこの部品です。 原電さんの発表では、原因はシール水に含まれる微少な異物とされていますが、恐らく目に見えないような微少な水垢のようなものでしょう。 私は何回も機能の低下したメカニカルシールの分解点検に立ち会いましたが、傷とは言ってもほんの少しスッと線が入った程度のものであることが多く、原因となった「異物」そのものを目にしたことは一度もありません。 とは言え、納入時の試験には光学的な干渉縞(ニュートンリング)により平滑度を確認するような代物ですから、かなり精密な加工が施されているもの。 呼び品倉庫に数年置いておいただけで狂いが生じ、工場へ送り返して再加工をして貰った記憶もあります。 メカニカルシールはこのように極めて精度の高い加工を必要とされる部品ですが、では機能が低下すると直ちに放射性物質が外部へ放出されるのか、といいますと、これはまず有り得ないことです。 さて、高圧の炉水を外部へ漏らさないようにするためには、どのようにすれば宜しいでしょうか? 答えは簡単、炉水よりも高圧の水を外部から注入(シール水)してやればよいのです。原子炉の炉圧が約70気圧ですから、それ以上の圧力の水を入れてやれば、放射能を含んだ水の外部への漏えいを抑える事ができます。BWRでは、具体的には制御棒挿入にも使用される制御棒駆動水圧系の水を少々頂き、ここに注入してやることになります。 また、原子炉再循環ポンプの場合、メカニカルシールは圧力差の分散と漏えいリスク低減のために2段構造となっています。もし1段目のシール機能が損なわれたとしても、2段目が健全であればメカシールの機能は確保できますし、温度、圧力、漏えい量を中央制御室で監視できます。 今回の手動停止は、1段目のシール機能が低下し、1段目と2段目の間のシール室の圧力とリーク量(コントロールリーク)が増加傾向にあったために止めたものであり、(原電プレス添付図参照)で、2段目のシール機能喪失(=メカニカルシール全体の機能喪失)を意味するシールリーク量は増加していません。 つまりは、シール機能が確保されている状態で「念のため」に発電所を止めたものです。 もし、さらに2段目のシール機能も喪失してシールリーク水流量が増加したとしても、漏えいするのは高い放射能を帯びた炉水ではなくそれより高圧で注入されているシール水となりますし、またシールリーク水は機器の外部に漏れるわけではなく、ポンプに付けられた細い配管を通って液体廃棄物処理系へ送られます。 この「原子炉再循環ポンプのシール機能低下」事象は、決して想定外のものではありません。 過去にも国内の発電所では数十回に渡って同じ理由で止めていますし、これに備えてどこのBWR発電所でも常にメカニカルシールの予備品を数個所有し、直ぐに対応できるように備えています。 「何故、いつまでもそんなトラブルが解決できないのだ? 原発は欠陥品ではないか?」と言う方もいらっしゃるかも知れませんが、そのような方に逆に尋ねてみたいです。 貴方は、車のワイパーやタイヤが磨り減ることを、『この車は欠陥品だ!』と言うでしょうか? BWR電力会社ではメカニカルシールをこのような「消耗品」に近いものとして認識しています。 もちろん、消耗品とは言え、原子力発電所を一日止めれば1億円位の損失は出るわけですから、なるべく止める必要がないようにメカニカルシールの共同研究を行ったり、またシール水の系統にストレーナや中空糸膜フィルターを設けて微少なゴミの流入を防ぐ、といった対策は行っているところです。 ここでメカニカルシールに関係するお話を少々。 1つ目。 最近はどうなっているか知りませんが、昔のJIS(日本工業規格)では、メカニカルシールの許容漏えい量が定められていたように記憶しています。つまり、「メカニカルシールは漏れるもの」との扱いだということですね。 2つ目。 メカニカルシールに限らず、日本では今回の敦賀1号のように「機能は喪失していないが念のために」故障の前に対策をとることが普通ですが、実はこのやり方はグローバルスタンダードな方法ではありません。 例えば米国。 敦賀1号で発生したようなメカニカルシール1段目の機能劣化をこのまま放置した場合、やがては2段目のシール機能も喪失する可能性があります。米国では、このようにして漏えい発生に至ったとしても、その漏えい量が定められた範囲内であり、炉水がメカシールの外に出るようなことがなければ、次の燃料交換停止まで運転を継続する・・・といったことも、事業者の判断で普通に行われています。 (今回の敦賀1のケースは夏の電力需要逼迫を見越して早めに停止を行ったものであるため位置づけは少々異なりますが、)世界の標準は既に状態監視保全に移行しており、我国でも既存の保全品質情報データベースの強化と点検の見直しが望まれます。 工学や技術に関する基本的知識の少ない記者が多い一部の全国紙や、人的資源に恵まれない地方紙などでは、この辺のことを理解せずに誤った知識のままで過剰な報道がなされているように感じます。 以前取り上げた愛媛新聞の柏崎刈羽の制御棒動作不能に関する社説は、その最たるものです。 原子力反対・賛成以前に、記者の皆様には記事にする前に最低限の知識を身に着けて頂きたいところです。そのためには、疑問に感じたことをそのままにせず、納得するまで取材する努力を惜しまないで欲しいと思います。 さすれば愛媛新聞の社説の様な「読んでいる方が恥ずかしくなる」間違いを犯す事はなくなるでしょう。 事業者側には、マスコミの方がどの程度の知識を有しているのか、またどんな情報を求めているのかが解りません。どの事業者でも聞かれたことには答える用意があるはずですので、しっかり理解した上で記事を書いていただきたいと感じています。 私の知人のある地方紙の記者の方。 原子力に対する立場は(反対派に近い)慎重派でしたが、非常に勉強家で、広報の者と公私なくコミュニケーションを図り、優れた記事を書いていました。残念なことに、最近の記者にはこのようなエネルギーも自分で調べようとする意志もなく、全く理解していないままで適当な記事を書いている方が多いように感じます。 |
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エネルギーフォーラム4月号コラム「おやおや?マスコミ」(中村政雄氏)より |
えね 2008/05/16 08:26 |
一部の全国紙と書かれておられますが、私見では全ての全国紙において科学的知識(自然科学に限らず社会科学も人文科学も)が絶望的に足りない記者が跋扈していると思います。むしろ何かの分野で一流の科学知識を持つ記者が一人でも居たら、ご紹介いただきたいほどですね。 |
かとう 2008/05/17 22:03 |
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